オイルの知識の豆辞典

オイルの働き
オイルの作られ方
ATFの働き
ディーゼルエンジンオイル
ブレーキフルード
ギアオイルの仕事
2サイクルオイル

 

エンジンオイルは灼熱の心臓を潤す命の液体

 何かにつけて手間のかかったひと昔前の車と違い、今の車はトラブル知らずで高性能。キーをひねれば、いつでもエンジンがかかり走り出せると思いがち。しかし、これはとんでもない誤り。むしろエンジンが高性能になった分、エンジンオイルの管理がいっそうシビアになってきた。エンジンオイルは6つの重要な役割をになっているのだ。

エンジンオイルの役割

1、摩擦を減らす減摩作用

2、圧縮および燃焼圧力を保つ密封作用

3、燃焼と摩擦による熱を逃がす冷却作用

4、エンジン内部をクリーンに保つ清浄分散作用

5、錆を防ぐ防錆作用

6、燃焼による衝撃荷重を分散する応力分散作用

 高性能を追求した最近のエンジンでは、これらの機能もより高いレベルのものが要求される。中でも、清浄分散作用は特に重要視されている。


エンジンオイルはこうして作られる

 全ての石油製品は原油を蒸留する事から始まる。原油を蒸留塔のなかで加熱していくと軽い蒸気程、高いところまであがる。そこで、ガソリンになったり軽油になったりするわけだ。一番蒸発しにくいのが重質油で、これがエンジンオイルの原料となる。これから作られるのが鉱物油だ。もうひとつ重要な原料はガソリンの精製段階でできるナフサだ。これは分解されてエチレンとなり、化学合成油の原料になる。

 重質油は減圧蒸留される、そして溶剤を使ってパラフィン分を取り除く処理が施される。それでほぼベースオイルとしてできあがったが、化学的に不安定な分子の二重結合を持っているので水素還流で改質する。こうして鉱物油のベースオイルができあがった。

 ナフサを分解してできたエチレンを重合させてポリ・アルファ・オレフィン(PAO)を合成する。このPAOの分子量をコントロールする事で様々な性質を持つベースオイルを製造できる。製品の均質性においても化学合成油ははるかにすぐれている。最近の多くの高性能オイルは化学合成油である。


ATFはイージードライブの影の主役

「オートマ」「トルコン」とか殆どの乗用車はイージードライブ車となった。これはAutomatic Transmissionのおかげである。そしてそれを支えているのがATFである。ATFは働き者である。4つの重要なはたらきを常にしていなければならないのだ。

Automatic Transmission Fluidの役割

1、トルクコンバーター内で動力を伝える。

2、湿式多板クラッチに適切な摩擦を与える。

3、変速の為のクラッチを制御する。

4、ギア、ベアリングの潤滑

 潤滑油でありながら粘性で動力を伝達したり、摩擦を調整したりとかなり特殊である事がお分かりいただけるだろう。オートマチック車は動力をオンオフするマニュアルクラッチがないので、始動や停車時にはトルクコンバーターがスリップしてくれないとエンジンは回転できない。そこでもあまり粘性が低いとスリップが多くて効率が悪い。また、メインクラッチの摩擦の維持では、短時間で確実にシフトチェンジを行うためには、維持する摩擦は大きすぎても小さすぎてもいけない。大きければシフトショックは大きくなる、小さければスリップして進まない。粘性、摩擦、潤滑という相反する要素を高い次元で組み合わせる事で快適なドライブを約束しているのだ。

 ATFも使ううちに疲労してくる。各メーカーとも補強しているけれどオイルとしての質は、使う以上良くはならない。早め早めの交換がベストだ。しかし、替えるといってもエンジンオイルのようには簡単にいかない。オイルラインは複雑で、冷却用にラジエーターの中までオイルは巡っている。そのうえ、コンバーターの中のオイルは自然には出てこない。この作業は専門店にまかした方がよい。

 もうひとつATFのタイプに就いて少し話しておこう。オートマチックの発祥の地はアメリカだ。そのBIG3のGM社がきめた規格がDEXRONである。他方FORD社が定めたFORDタイプというものがある。この二つは摩擦特性に於いて全く相容れないものだった。絶対に混用は許されなかったのだ。現在では、FORDタイプはごく少数派になってしまった。両者の機構的な大きな違いは変速時にある。FORDタイプは変速時に大きなショックがでる、これを複雑な機構でカバーしてきたのだ。GMタイプは変速時になると摩擦が少なくなるので、ショックも小さくて済む。そこで、最近はFORDタイプも考え方を変えて、複雑なミッションを設計するより、ATFに性能の一部を肩代わりさせようという動きが出てきた。それが最新規格MERCONである。性質はDEXRONに似ている。将来はひとつの規格になる可能性もある。


ディーゼルエンジンには専用オイルを

 黒煙を吐きながら走り去るディーゼル車。あまり、歓迎されたものではない。しかし、このディーゼルエンジンは理論上はより多くの空気を取り込む燃焼「リーンバーン」が可能だ。ガソリンエンジンの空燃比が1:13〜18だが、ディーゼルエンジンでは1:15〜160と桁違いに薄い燃料でも機関が作動可能なのだ。このため同じ出力だと2酸化炭素の発生は少なめで地球温暖化の原因にはなりにくい。しかし、効果的な触媒を持たないので1酸化炭素等の有害物質は未処理のまま放出されてしまう。触媒を装置しても煤ですぐにつまってしまいその機能を失ってしまう。最近ヨーロッパで専用の触媒が開発されて効果をあげている。ディーゼルエンジンが脚光を浴びる日も近いかも知れない。

 

 ディーゼルエンジンのオイル規格はガソリンエンジンのようにすっきりとは区別されていないのが現状だ。原因の一つはエンジンのバリエーションと用途の多様性にある。今はあまり見ないが、2サイクルディーゼルもある部分では活躍しているのだ。そのための規格も現にある、末尾に「ー2」と書かれたのがそれである。建設機械、船舶、バストラックとエンジンの大きさ、回転速度の違いも、ガソリンエンジンの比ではない。また、燃料の違いによるものもある。アメリカでは低硫黄分の軽油が使用される。それで、そのための規格が存在する。それは、日本やヨーロッパのように硫黄分を多く含んだ燃料を使用した場合には不向きである。硫黄は燃焼により亜硫酸ガスとなる。亜硫酸ガスは油の中の水分と結びついて硫酸になりエンジンを腐食させる。エンジンオイルにはこれを中和させる能力が要求される。つまり、日本で使う場合はCD,CE,CFという規格に基づいた選択が必要である。ディーゼルエンジンを低速のカッタルイエンジンと考えている向きもあるかも知れないが、ガソリンエンジンで到達できない大きな出力を可能にしているのがディーゼルエンジンだ。自動車の場合同じ車種で、ガソリンとディーゼルがある場合ガソリン車の方がかならず高出力である。それは、ディーゼルが出力が出ないのではなくそれほどの最高馬力を必要としないからなのだ。とにかく、ディーゼルを軽んじてはいけない。シャーシーダイナモでエンジン出力を測ると分かるけれど、確かに最高出力はガソリンエンジンに及ばないもののグラフ上に表される出力曲線の面積を比較してほしい。それほど差はないはずだ。ヨーロッパの自動車メーカーはこの点については熟知している。極端に最高トルク発揮回転位置が低いエンジンも数多く見られる。


ブレーキフルードは命綱

 「運動エネルギーを熱エネルギーに変換する装置」が制動装置と言える。使えば使う程大量の熱が発生する。その熱をいかに逃がすか、その熱にいかに耐えるかがブレーキの宿命である。熱でブレーキフルードが沸騰してしまいラインの中に気泡ができてしまい、ペダルを踏んだ圧力が気泡に吸収されてしまう。これを「べーパーロック」と言う。大事故につながりかねない恐ろしいトラブルだ。信頼のおける製品を車検毎に交換したい。交換については重要保安部品だ、絶対プロにまかそう。

 DOT3,DOT4,DOT5と表示してあるのは知ってると思う。DOTはアメリカの運輸省の略だ。ブレーキフルードの沸点と低温流動性に基準を設けている。また、新品の状態のドライ沸点とある程度使った状況を想定して水分を含んだウェット沸点を設けている。

DOT規格
DOT3
DOT4
DOT5
ドライ沸点
205℃以上
230℃以上
260℃以上
ウェット沸点
140℃以上
155℃以上
180℃以上
-40℃の粘度
1500cSt以下
1800cSt以下
900cSt以下

 多くの場合沸点の基準は大きくクリアしても、低温流動性に問題があったのだ。また、上の表を見るとDOT3の低温流動性の方がDOT4よりも厳しい値を取っている。また、必ずしもDOT5が万能ではないと言う事も言える。価格は飛び抜けて高くなるし、沸点だけで言えばDOT5基準を上回るDOT4フルードも多くあるのだ。使用状況、環境に合わせて選んでもらいたい。

 成分の話も知っておいて損はない。自動車の黎明期は、部品もフルードも全て天然素材だった。天然ゴムのパッキンにシール、フルードはひまし油だ。いまでもR30などのレーシングオイルにひまし油は残っている。60年代になって合成ゴムが、パッキン材に使われるようなってくるとブレーキフルードもポリグリコールやグリコールエーテルのような合成化学溶液に取って代わられた。グリコール系は合成ゴムを傷めないのだ。その後、ほう酸エステルを加える事でグリコール系はDOT4などの高い耐熱性を獲得していく。ところで、ブレーキフルードはグリコール系だけではない。シトロエンやロールスロイスは独自の鉱物油にこだわっている。ごく少ないがシリコン油も使われている。シリコン油は耐熱性が高くDOT5と言う最高グレードはシリコン油で達成された。しかし、圧力を受けると若干縮む性質があるので、ペダルの踏みごたえはよくない。また、水と全く馴染まないので、水分を含むと水滴となって一カ所にたまりやすく、この部分がわずか100℃でべーパーロックを起こしてしまう。その後の技術革新でグリコール系でもシリコン油のDOT5に匹敵するDOT5.1が達成された事もあって、シリコン油の必然性は薄らいだのである。一番大事なのは、グリコール系のブレーキフルードは他のオイルとは全く違うものであると言う事である。オイルという呼び名をしない事からも分かるであろう。


ぎりぎりで金属を支えているギアオイル

 「車はやっぱりマニュアルに限る。」そうした向きも少なくない。操る楽しさはここに尽きるかも知れない。今のMTは素晴らしいシンクロ機構により、クラッチを踏んでレバーを動かせば、極端な話どこでも変速できてしまう。ダブルクラッチを駆使し、たまにはヒールアンドトウでと言うような事は殆どない。機構が進めば進む程、それを支えるオイルの仕事も重要になってくる。ギアオイルの役目の一つはギアどうしを潤滑して磨耗や発熱を防ぐ事である。ラフなシフトや路面からの衝撃でギアどうしが叩かれてもそのクッションとなってギアの損傷を防ぐ役割もある。また、シンクロナイザーのギアとコーンとで適切な摩擦を維持して、スムースにシフトさせる機能も要求される。金属どうしが擦れてできる金属粉も洗い流す必要がある。ギアオイルの容器の表示に「GL-4]とか「GL-5]と言う文字があるのを知っているだろう。1から5までの段階があるけれど現在ではGL-3.4.5が一般的に使われている。GL3と4はトランスミッション用、GL-5はディファレンシャル用として取り扱われる事が多い。エンジンで発生したトルクが最終的にタイヤに伝わり、車体を動かすのだが、トランスミッションにはエンジンのトルクが直接入力されるので極圧はそれほど高くないが、ディファレンシャルでは減速された高いトルクが伝わるため極圧は高い。指標の表示が大きければ良いかと言うと、必ずしもそうとはいえない。3,4,5でそれぞれ摩擦特性が異なるため、シンクロ機構に悪影響を与える可能性があるのだ。メーカーの指定したものを使いたい。SAEの表示を見ると、ギアオイルの数字は大きなものが多い。それは、エンジンオイルとは表示の規格が全く異なるためで単純にエンジンオイルの番手と比較してはいけない。また、強大な荷重を支えるのは硬いオイルが良いと言う考えがでてきそうだが、それはちがう、極圧に対する強さは前述のGL-3.4.5が示している。交換は技術と特殊な工具を必要とするので、やはり専門店にまかした方が良いだろう。


2サイクルオイルの働き

 以前と比較すると格段に減少した排気煙だが、エンジンが十分に暖まっていない時の白い煙りは2サイクルエンジンの泣きどころだ。2サイクルは2ストロークエンジンとも呼ばれるが4サイクルエンジンと根本的に異なるのは明確な吸排気行程を持たない事と独立したシリンダー、ピストンとクランクの潤滑機構を持たない事にある。吸入しながら圧縮を行い燃焼爆発ガスを排気しながら新混合気を吸入する、単純機構のなかに非常に複雑な行程と機能を持たした素晴らしいエンジンだ。潤滑機能を燃焼混合気に含まれる潤滑油に頼るしかない為、特殊な能力を持ったオイルが要求される。混合気に容易に混ざり、ベアリング、シリンダー、ピストンの潤滑を行い、燃焼室のなかではきれいに燃え尽きる必要があるのだ。例えば、潤滑能力ばかりが強調された油脂であれば非常に燃焼しづらいものになり、燃えカスが排気機構にたい積してしまう。逆であれば潤滑能力に不安が残る。非常に厳しいバランスが要求されるのである。そこに、オイルメーカーの技術が発揮される。

 かっては自動車にも搭載された事があるが今は、殆どがオートバイである。それも、小型のスクーターと大変な高性能を誇る競技用またはそのレプリカモデルである。スクーターとレーサーに大別されていると言っても過言ではない。スクーターは小さなエンジンを搭載し、足代わりとして懸命に働いている。しかし、殆どのユーザーはメンテナンスに時間も費用もかけない。そのために想像を絶する苛酷な事態が起きている事が多い。そのような条件の元でも、しっかりとエンジンを守っているのだ。もちろん、バイクメーカーの奇跡的な研究成果が盛り込まれた、高い信頼性と安定した技術の賜物である事は言うまでもない。

 スクーターにとっては安定性が最も重要である。どんな時でもすぐにエンジンは始動し、ストレスなくすぐに走れる。長期間にわたってトラブルフリーである事。そんな贅沢な要求を満たすためには間違いのないオイルを選ぶ必要がある。いま、最も信頼のおける2サイクルエンジンオイル規格はJASOである。日本のエンジンメーカーとオイルメーカーとが共同して制定した規格でFA,FB,FCの3段階に分けられている。FCが最も上級規格でこの表示のオイルは信頼できる。バイクメーカーの純正として流通しているものも殆どこの規格を満たしている。そのなかでもオイル専門メーカーの造るオイルはFC規格をはるかに凌駕するものが少なくない。

 使用状況が選択の際の大事なポイントである。競技指向のオイルを町乗りに使う事は無駄でもあるし、逆に不便をもたらす事があるかも知れない。例えば点火プラグの最大の敵は油分である事を御存じだろうか。クィックスタートが重要なのに不必要な失火を招く可能性もある。競技車の場合は冷間時のエンジンの性能など考慮されない。一番要求されるのは潤滑能力であり、もうひとつは反応の素早さである。

 自分のマシンの性能を引き出すためにキャブレターのセッティングに頭を悩ました事はないだろうか。そんな時にセッティングの良否の反応をエンジンが確実にしてくれないと困る。今では、デトネカウンターとか専用の機械もでてきたが、やはりジェットを上げた、下げたの反応が鈍いオイルは困りものだ。潤滑能力だけをうたっている2サイクルエンジンオイルもあるが、もう一つの重要な能力を見のがしてはならない。

 現在、環境問題の重要性から2サイクルエンジンは厳しい立場に追い込まれている。トップメーカーのホンダはスクーターも4サイクルエンジン化すると言う事になっている。しかし、この不思議な機構のエンジンがこのまま廃れるのはあまりにも惜しい。有効な排気ガスの浄化装置が開発されてクリーンな2サイクルエンジンバイクが走れるようになる事を期待したい。

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