【終わった】

「痛かろう。僕だよ。分かるか」と言えども、既に答えもなくもう助かりそうもない。早速、収容を頼む。
 松本君の傍に上田君が、少し間を置いて曲田君(まがりだ)が、他の工員達と折り重なって倒れ、既に息絶えている。その頃になると漸く救護隊も揃って来た。フト見ると仁王頭君(におうづ)が立っている。片方は裸足、片方が下駄。
 もう居ないか、と倒れている人達の足取りを辿り、北の入口を見回ると、燃える入口の所に、既に息もなく田代君(たしろ)が倒れている。
 「田代!お前もか」胸をふさがれた。もう涙も出ない。火の熱さも忘れて茫然。やがて引きずる如く火から離す。
 「先生、あの向こうに生徒さんらしい方が・・」と誰か言う。この上もかと、拝きむしられる思いで行って見れば、壕の入口に重い桁木(けたぎ)に打たれて既に昇天している糸賀君(いとが)だ。又探す。壕から壕を。死体から死体を。運んで行く。挿しに行く。
「先生!主機工場に山中生が」と言う。収容されているのを見れば松村君だ。 「お前は何処で?」聞けば、私の居た隣の壕でやられたらしい。あゝ!』
 以上が高橋先生の手記です。
 負傷者が運び込まれた付近の病院や光会舘、お寺、学校も大変です。どの教室もけが人で一杯で廊下やグラウンドにも寝かされています。もがき苦しむ者、泣き叫ぶ者・・医者も看護婦も手が回りきらず、そのまま息絶える者もいます。そこへ又、トタン仮に乗せられた負傷者が運び込まれます。付近一帯は血の海です。
 日は暮れかかりました。火炎は容易に衰えません。そこへ再び空襲警報。 「夜間空襲は必至だ。捜索一先ず打切り」の声がかかり、無事だった先生や生徒は重い足に重い心を託しながら寄宿舎に引き上げました。

戦争は終わりました。
玉音放送・朕深ク世界ノ大勢卜帝国トノ現状トニ鑑み非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ収拾セム ト欲シ滋二忠実ナル爾臣民二告グ・・・・・